旅館を売却するには? ― 相談先・相場・許可の承継まで【2026年版】

公開日:最終更新日:

旅館の売却は、「①相談先を選ぶ → ②相場を把握する → ③許可・権利の引き継ぎ方を確認する → ④囲い込みのない仲介で売り出す」という順で進めるのが基本です。赤字や休業中の旅館でも、立地・建物・営業許可に価値があれば売却は十分に可能で、買い手は同業者・投資家・異業種まで幅広く存在します。価格は主に収益還元法と取引事例比較法で決まり、営業許可を事業譲渡・株式譲渡のどちらで引き継ぐかが取引条件を左右します。

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旅館を売却したいとき、どこに相談すればいい?

旅館の売却相談先とは、宿泊事業の譲渡を仲介・助言する専門家のことで、大きく「M&A仲介会社」「不動産仲介会社」「旅館・ホテルに特化した専門仲介」の3種類に分かれます。

まず、自分の旅館を「不動産として売る」のか「事業ごと譲る」のかを整理し、それに合った相談先を選びます。建物・土地の売却が中心なら不動産仲介、従業員や営業許可ごと引き継ぐなら事業譲渡に明るい仲介が向きます。1社で決めず、複数の見立てを比べるのが安全です。

選ぶときは、①宿泊業の取扱実績、②売り手・買い手のどちら側に立つ仲介か(後述の「囲い込み」と関わります)、③報酬体系――の3点を最初に確認します。M&A仲介は事業全体の譲渡に強く、不動産仲介は土地・建物の売買に強いものの旅館特有の許可・温泉権に不慣れな場合があり、専門仲介は両者の中間です。

旅館の売却相場はどのくらい?どう決まる?

旅館の売却価格とは、建物・土地などの資産価値と、その旅館が生み出す収益力を総合して決まる金額で、主に「収益還元法」と「取引事例比較法」で評価されます。

旅館の相場は「いくら稼げるか」と「似た物件がいくらで売れたか」の両面から決まります。収益還元法は年間の営業利益を一定の利回りで割り戻す方法、取引事例比較法は近隣・類似の成約事例から坪単価などを当てはめる方法です。築年数・立地・温泉の有無・客室数で大きく変動します。

旅館は一棟ごとの個別性が強く、公表された成約事例も少ないため、住宅のように相場が見えやすいわけではありません。実務では両方法に加え、建物の再調達原価(新築費用から経年劣化分を引いた額)や土地値も参照し、幅をもって見立てます。帝国データバンクによれば、宿泊業の市場規模は2025年度に6.5兆円と過去最高を更新する一方、債務超過企業は28.6%(2019年度は24.8%)と二極化が進むとされます。正確な水準は、決算書・稼働率・予約実績をもとに算定する必要があります。

赤字や休業中の旅館でも売却できる?

休業・赤字旅館の売却とは、営業利益が出ていない、または営業を停止している宿泊施設を第三者に譲渡することで、立地・建物・営業許可などに価値があれば成立しうる取引です。

赤字や休業中でも、売却は可能な場合が多くあります。買い手は「現在の損益」より「立地・建物・許可を引き継いで、自分なら黒字化できるか」を見て判断するためです。再生を前提に取得し、改装・運営改善で立て直す投資家やファンドも少なくありません。

価値が残る理由は主に3つです。①立地――温泉地・観光地・駅近などの希少な立地は、建物が古くても価値が残る。②営業許可――新規取得に手間がかかるため、許可付きは「すぐ営業を再開できる資産」と評価される。③建物・設備――客室・浴場・厨房がそろえば、ゼロから建てるより安く事業を始められる。観光庁の調査では、旅館・ホテル経営者の約3割が「事業承継をしたいが進んでいない」とされ、黒字でも後継者不在で閉じる「黒字廃業」が地方の老舗で目立つとされます。一方、簿外債務(帳簿に表れない借入や保証)・未払い労務・係争中の案件はリスク要因のため、引き継ぐべき事業価値(屋号・常連客・取引先・雇用)と切り分けて提示することが鍵です。

旅館の営業許可は、買い手に引き継げる?

旅館業の営業許可の承継とは、売り手(譲渡人)が持つ旅館業法上の営業許可の地位を、買い手(譲受人)が引き継ぐことで、取引が「事業譲渡」か「株式譲渡」かによって扱いが異なります。

法人ごと買う「株式譲渡」なら、運営会社が許可を持ったままなので、許可・従業員・契約はそのまま引き継がれます。個人や事業単位で買う「事業譲渡」は、かつては買い手の新規許可が必要でしたが、2023年12月の法改正で、事前の承認手続により承継できるようになりました。

株式譲渡では、運営会社の株式を取得するため、許可・温泉利用権・雇用契約・取引先との契約が原則そのまま継続します。これが、国内外の買い手が株式譲渡を選びやすい理由です。事業譲渡については、2023年(令和5年)12月13日施行の旅館業法改正で手続きが整備されました。厚生労働省によれば、改正前は譲渡人の廃業届と譲受人の許可取り直しが必要でしたが、改正後は、譲受人があらかじめ都道府県知事等に承認申請し承認を得ることで、新たな許可取得なしに営業者の地位を承継できます(出典:厚生労働省「事業譲渡に係る手続の整備」)。承継後は6か月以内に都道府県等の調査が行われ、衛生管理の責任は譲受人に移るため、譲渡前に管轄の保健所へ相談しておくことが推奨されます。方式の選択は税務・許可・雇用の引き継ぎを含めて検討が必要で、弁護士・税理士・行政書士と連携して設計するのが安全です。

ホテル・旅館の売却仲介は、どう選べばいい?

旅館・ホテルの売却仲介の選定とは、宿泊資産の譲渡を任せる仲介会社を、報酬・立場・専門性の観点から比較して選ぶことです。

仲介選びの要点は、①売り手と買い手のどちら側に立つか、②宿泊業の実績、③レインズ(不動産業者間のデータベース)に載せて広く買い手を探すか、④報酬体系――の4点です。価格の安さより、売り手の利益を最優先する姿勢かを見極めます。

仲介には、売り手だけの代理を務める形(片手)と、双方を1社が仲介する形(両手)があります。両手仲介と囲い込みの関係は後述しますが、まず確認したいのは報酬体系です。不動産の売買仲介の報酬は宅地建物取引業法で上限が定められており、事業全体を扱うM&A仲介とは料金体系が異なります。あわせて、許可承継・温泉権・OTAアカウントの移転といった宿特有の論点に対応できるかも確認します。

「囲い込み」とは?避けるにはどうすればいい?

囲い込みとは、仲介会社が売り手から預かった物件情報を他社に十分公開せず、自社で買い手を見つけて売り手・買い手の双方から報酬を得ようとする行為のことです。

囲い込みが起きると買い手候補が狭まり、売り手は売却価格やスピードで不利になります。口頭で「他社にも紹介しますか」と尋ねても見抜きにくいため、囲い込みをしないと明確に掲げ、公開している会社を選ぶのが現実的です。

囲い込みが起きる背景には、報酬の構造があります。双方から報酬を得る「両手仲介」は片方だけの場合より会社の収入が大きく、とくに固定費の大きい会社ほど、最初の一定期間は自社だけで売りたいという動きにつながりやすくなります。売り出し直後はもっとも買い手の関心が集まる時期で、ここで入口を狭めることが、売り手にとって最大の機会損失になります。

見るべきは、囲い込みをしない方針をウェブサイト等で公開しているかどうかです。たとえば、①高値を追いすぎない適正な価格設定(買い手がついてこられる水準)、②レインズへの速やかな掲載と他社への情報公開、③他社の広告・客付けも認めて買い手の入口を広げること。公に掲げた方針は後から覆しにくく、信頼できる手がかりになります。

REYADOの売却支援も、成約を見込む価格に一定の上乗せをした水準で売り出し、レインズへ速やかに掲載し、他社の紹介・広告も妨げない方針を明示しています。囲い込みをせず、買い手の入口を広く保つことで、売り手の利益を高める狙いです。

旅館の売却で見落としがちな実務 ― 温泉権・OTA・旧耐震

旅館売却の引き継ぎ実務とは、建物・許可以外に、温泉を利用する権利、予約サイトのアカウント、建物の耐震性など、事業の継続に必要な要素を買い手へ移すための手続きを指します。

見落とされやすいのは、①温泉を使う権利、②OTA(予約サイト)のアカウントと口コミ、③1981年以前の旧耐震基準かどうか――の3点です。温泉権は、温泉法上の利用許可や温泉組合との契約が所有権とは別に存在する場合があり、移転や組合加入の要否を確認します。OTAアカウントは口コミや予約実績という集客資産ですが、名義変更の可否は各サイトの規約によります。建物は、1981年(昭和56年)6月より前の基準だと「旧耐震基準」に該当し、改修費に関わるため建築年・耐震診断の有無が重要です。いずれも不慣れな仲介では見落とされやすく、早めにチェックリスト化しておくとよいでしょう。

まとめ ― 旅館の売却は「順番」と「相談先」で決まる

旅館の売却は、①相談先を選び、②相場を把握し、③許可・権利の引き継ぎ方を確認し、④囲い込みのない仲介で売り出す、という順が基本です。赤字や休業中でも、立地・建物・許可に価値があれば売却できる可能性は十分にあります。とくに相続や事業の整理を見据える場合は、時間に余裕のあるうちに相談しておくことで、家族や従業員への引き継ぎも含めて選択肢を広く持てます。すべての旅館で同じ結果が出るわけではありませんが、宿泊業に通じた相談先と進めることで、納得のいく選択肢が見つかりやすくなります。

本記事の監修:宮崎洋平(宅地建物取引士/株式会社REYADO 代表/神奈川県知事(1)第33154号)

主な出典

  • 厚生労働省「令和5年改正旅館業法ポータル:事業譲渡に係る手続の整備」
  • 帝国データバンク「宿泊業の倒産・休廃業解散動向(2025年)」/「全国旅館・ホテル市場動向調査」
  • 観光庁(旅館・ホテルの事業承継に関する調査)
  • 旅館業法・温泉法(e-Gov法令検索)

よくある質問

旅館を売却したいとき、最初にどこへ相談すればいい?

宿泊業の取扱実績がある仲介会社に、まず相談するのが基本です。建物中心の売却なら不動産仲介、許可や従業員ごと引き継ぐなら事業譲渡に明るい仲介が向きます。1社で決めず、複数の見立てを比べると、売却の条件を整理しやすくなります。

赤字や休業中の旅館でも売却できますか?

可能な場合が多くあります。買い手は現在の損益より、立地・建物・営業許可を引き継いで自分なら黒字化できるかを重視するためです。簿外債務などのリスクを整理し、事業価値と切り分けて提示することが鍵になります。

旅館の営業許可は買い手に引き継げますか?

取引の形によります。法人ごと買う株式譲渡では、許可・従業員・契約がそのまま継続します。事業譲渡は、2023年12月の旅館業法改正により、譲受人が事前に都道府県知事等の承認を得れば、新規取得なしに営業者の地位を承継できるようになりました。

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