旅館の売却、どこに相談する? ― M&A仲介・不動産仲介・専門仲介の違いと選び方【2026年版】
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旅館の売却を相談できる先は、大きく「M&A仲介」「不動産仲介(宅地建物取引業者)」「旅館・ホテルに特化した専門仲介」の3種類に分かれます。同じ「旅館を売る」でも、扱う対象(不動産か事業か)が違えば、報酬体系・必要な免許・利益相反の起き方まで変わります。
はじめに決めるべきは、自分の旅館を「不動産(土地・建物)として売る」のか、「事業ごと(許可・従業員・取引先まで)譲る」のかです。ここが決まると、相談すべき相手が自然に絞られます。
この記事では、3種類の相談先の違いを、報酬・規制・利益相反・税金・営業許可の承継という5つの軸で、最新の法令と統計をもとに宅地建物取引士が整理します。どれが正解という話ではなく、目的によって向く相談先が変わる、という前提で読んでください。
旅館の売却相談先は大きく3種類
旅館の売却相談先は、扱う対象と専門性によって次の3つに分けられます。それぞれ得意な領域と料金体系が異なります。
- 不動産仲介(宅地建物取引業者):土地・建物という「不動産」の売買を仲介します。宅建業免許が必須で、報酬は宅地建物取引業法で上限が定められています。建物・土地の売却が中心のときに向きます。
- M&A仲介:会社や事業そのものの譲渡(株式譲渡・事業譲渡)を仲介します。免許・業法はなく、報酬は「レーマン方式」が一般的です。従業員・取引先・許可ごと引き継ぐ承継に向きます。
- 旅館・ホテル特化の専門仲介:宿泊業に絞って売買・承継を扱います。立場や料金は会社により幅があり、不動産仲介とM&A仲介の中間に位置づけられることが多いです。
旅館は「不動産」と「事業」の両方の性質を持つため、どの相談先が最適かは一概に決まりません。まずは次のセクションで、自分のケースがどちらの性質に近いかを切り分けます。
「不動産として売る」か「事業ごと譲る」か ― ここで相談先が決まる
相談先選びの分かれ目は、売る対象が「資産(不動産)」なのか「事業」なのかです。旅館は両方を含むため、何を主に手放したいかで判断します。
- 不動産として売る:建物・土地の価値を中心に売却するケース。休業中・廃業整理・建て替え前提などで、運営や雇用を引き継がない場合に多い。→ 不動産仲介(宅建)が中心。
- 事業ごと譲る:営業中の宿を、従業員・常連客・取引先・営業許可ごと引き継いでもらうケース。黒字で後継者だけがいない「承継」で多い。→ 株式譲渡・事業譲渡というM&Aの手法が関わる。
もっとも、実務では「建物・土地が主だが、営業許可も引き継ぎたい」といった中間のケースが少なくありません。その場合は、不動産の売買に通じつつ、許可承継や事業譲渡の論点にも対応できる相談先を選ぶことになります。相続や事業整理を見据えるなら、早い段階で相談先に切り分けを手伝ってもらうのが安全です。
報酬はどれだけ違う? ― 宅建の法定上限とM&Aのレーマン方式
報酬体系は、不動産仲介とM&A仲介で根本的に異なります。不動産仲介は法律で上限が決まっているのに対し、M&A仲介は法規制がなく会社ごとの幅が大きいのが特徴です。
ざっくりした目安はこうです。1〜2億円規模なら、上限が法律で決まっている不動産仲介の方が手数料は安く収まりやすい。規模が大きくなるほどM&Aのレーマン方式と近づきますが、M&A仲介は「最低手数料」で実額が跳ねることがあるため、どちらを選ぶにせよ契約前に金額を書面で確認するのが鉄則です。以下、根拠となる数字を順に見ていきます。
不動産仲介:宅地建物取引業法の法定上限
不動産仲介の媒介報酬は、宅地建物取引業法に基づく国土交通省告示で上限が定められています。売買価格400万円超の物件は「売買価格×3%+6万円(+消費税)」の速算式で、依頼者の一方から受け取れる上限額が決まります。
- 1億円の物件:上限306万円(税抜)=336万6,000円(税込)
- 3億円の物件:上限906万円(税抜)=996万6,000円(税込)
これは売主・買主それぞれの一方から受け取れる上限です。1社が売主・買主の双方を仲介する「両手」の場合、会社の総収入の上限は単純計算で2倍(1億円で約673万円、3億円で約1,993万円)になります。なお2024年7月1日の改正で、800万円以下の「低廉な空家等」は売主・買主いずれからも上限33万円(税込)まで受領できる特例が加わりました。
M&A仲介:レーマン方式と最低手数料
M&A仲介には法定の報酬規制がなく、取引金額に応じて料率が下がる「レーマン方式」が一般的です。典型例は、5億円以下の部分5%、5〜10億円4%、10〜50億円3%といった段階制です。
- 1億円の取引:レーマン計算では500万円(1億円×5%)
- 3億円の取引:レーマン計算では1,500万円(3億円×5%)
ただし多くのM&A仲介会社は「最低手数料」を設けており、ここが実際のコストを大きく左右します。中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録する事業者の集計では、最低手数料は10万円〜2,500万円と幅が広く(中央値はおよそ300〜500万円)、大手は2,000万〜2,500万円、中堅は500万〜1,500万円が目安とされます。さらに着手金(50万〜200万円程度、不成立でも返金なしが一般的)を求める会社もあり、業界の約6割が着手金型、約4割が完全成功報酬型と整理されています。
どちらが安い、ではなく「対象が違う」
1億円規模では、レーマン計算(500万円)より不動産仲介の上限(片手336万6,000円)の方が安く見えますが、大手M&A仲介は最低手数料が適用されて実質コストが膨らむことがあります。3億円規模になると、不動産仲介(片手996万6,000円・両手約1,993万円)とレーマン計算(1,500万円)は拮抗します。重要なのは安さの比較ではなく、不動産仲介は「不動産の売買」、M&A仲介は「事業の譲渡」と扱う対象そのものが違うため、料金体系も別になっている、という点です。M&A仲介を検討する際は、契約前に「基準となる価額」(時価総資産・純資産・株価のどれを基準にするか)と最低手数料を書面で確認することが、中小企業庁のガイドラインでも勧められています。
免許と規制の違い ― 売り手保護の制度はどちらが厚いか
相談先の「信頼性の枠組み」も、不動産仲介とM&A仲介で大きく異なります。法律で枠がはまっているか、自主規制中心かという違いです。
- 不動産仲介:宅地建物取引業法に基づく宅建業免許が必須(有効期間5年・更新制)。重要事項説明や書面交付が法律で義務づけられ、違反には罰則があります。媒介契約は「専属専任・専任・一般」の3類型に整理され、専属専任は契約翌日から5営業日以内、専任は7営業日以内のレインズ(指定流通機構)登録が義務です。
- M&A仲介:仲介業務そのものに業法・免許はありません。代わりに、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」(ソフトロー)と、2021年8月創設の「M&A支援機関登録制度」(任意登録)が健全化を担っています。
中小M&Aガイドラインは2020年3月の初版、2023年9月の第2版を経て、2024年8月30日に第3版へ改訂されました。第3版では、仲介契約の締結前に「相手方の手数料」まで含めて書面で開示する義務や、特定の利益相反行為(追加手数料を払う相手への便宜、有利・不利な情報の秘匿など)の禁止が明文化され、これらを仲介契約書に義務として明記することが求められています。テール条項(仲介契約の終了後、一定期間内に成約した場合にも手数料が及ぶ条項)も、期間は最長2〜3年を目安とし、対象は実際に紹介を受けた相手に限定するなど、運用が絞られました。
つまり、不動産仲介は「法律で枠がはまっている」相談先、M&A仲介は「自主規制と登録制度で健全化が進行中」の相談先と理解すると、確認すべきポイントが見えてきます。M&A仲介を選ぶなら、M&A支援機関登録の有無と、第3版に沿った契約内容かを確かめると安心です。
利益相反と「囲い込み」 ― 相談先で起き方が違う
売り手が最も注意したいのが、相談先の利益相反です。不動産仲介とM&A仲介では、利益相反の起き方も対策の枠組みも異なります。
不動産仲介で問題になるのが「囲い込み」です。これは、売主から預かった物件を他社に十分公開せず、自社の買主だけで成約させて売主・買主双方から手数料(両手)を得ようとする行為を指します。買い手候補が狭まり、売主は価格やスピードで不利になります。2025年1月1日施行の宅地建物取引業法施行規則の改正で、専任・専属専任物件のレインズ取引状況(「公開中」「申込あり」「売主都合で一時紹介停止中」)の正確な管理が義務づけられ、囲い込みが確認された場合の指示処分(従わなければ業務停止、悪質なら免許取消)が明文化されました。
M&A仲介では、売り手・買い手の双方から手数料を取る「仲介」と、一方のみの代理人として動く「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」の違いが、利益相反の起き方を左右します。前述のとおり第3版ガイドラインで利益相反行為の禁止と開示義務が強化され、譲り渡し側の社名を相手に開示する前の個別同意(ネームクリア)も義務化されました。
相談先を選ぶときは、どの種類であっても「利益相反にどう向き合うか」を契約前に確認しておくと安全です。不動産仲介なら、レインズへ速やかに掲載し他社の紹介・広告も妨げないか(囲い込みをしない方針か)。M&A仲介なら、仲介とFAのどちらの立場で動き、相手方の手数料まで開示されるか。方針をウェブサイトや書面で明示している相談先ほど、あとから覆りにくく、信頼の手がかりになります。
税金の違い ― 不動産譲渡・株式譲渡・事業譲渡(見込み)
売る対象が「不動産」か「事業」かは、税金にも影響します。スキームによって税率や課される税の種類が変わるため、相談先選びとあわせて早めに把握しておくと判断しやすくなります。以下は一般的な見込みであり、実際の税額は個別事情で変わるため、税理士への確認が前提です。
- 不動産を直接譲渡(個人):譲渡所得への分離課税で、所有期間5年超の長期は合計20.315%、5年以下の短期は合計39.63%が目安(復興特別所得税を含む。2037年分まで加算)。
- 株式譲渡(個人株主):譲渡益に対し一律20.315%の申告分離課税。法人格が継続するため、原則として消費税や不動産取得税・登録免許税はかかりません。
- 事業譲渡(法人が売り手):譲渡益に法人税(実効税率およそ29〜31%)がかかり、対象資産には消費税10%も。売却代金を個人が受け取る段階でさらに課税され、二段階の課税になりやすい構造です。
なお事業譲渡で不動産が含まれる場合、買い手側に不動産取得税(固定資産税評価額×3%・特例期間中)や登録免許税(同×2%、土地の所有権移転は令和8年3月末まで1.5%)が生じます。株式譲渡では不動産の所有権が移転しないため、これらは原則発生しません。どのスキームが有利かは譲渡益の大きさや法人・個人の別で変わるので、相談先を決める前に税理士を交えて見積もるのが安全です。
旅館業の営業許可は引き継げる ― 相談先選びへの影響
旅館を「事業ごと」譲るときに欠かせないのが、営業許可の承継です。2023年(令和5年)12月13日施行の改正旅館業法により、事業譲渡でも承継しやすくなりました。
- 株式譲渡:運営会社の株式を取得するため、営業許可・温泉利用権・雇用契約・取引先との契約が原則そのまま継続します。手続きは代表者変更等の登記変更が中心です。
- 事業譲渡:改正前は買い手の新規許可取得が必要でしたが、改正後は、譲受人があらかじめ都道府県知事等の承認を得ることで、新たな許可取得なしに営業者の地位を承継できます。承認手数料はおおむね7,400〜2万円台(自治体により異なる)、標準処理期間は21〜23日程度、承継後6か月以内に保健所の業務状況調査が行われます。
実務上の注意点は、承認が下りる「前」に経営権を移してしまうと承継が認められず、無許可営業とみなされるリスクがあることです。クロージングの2〜3か月前から保健所へ事前相談しておくのが安全です。許可承継の段取りは相談先の実務力が出るところなので、宿泊業の許可・温泉権・OTAアカウントの移転まで見通せる相談先かどうかを確認しておきましょう。
ケース別の選び方とまとめ
ここまでの違いを、よくあるケースに当てはめて整理します。
- 黒字で営業を続けたまま、従業員ごと承継したい:株式譲渡・事業譲渡に通じた相談先(M&A仲介や、承継に対応できる専門仲介)が向きます。
- 赤字・休業中で、建物・土地の価値で売りたい:不動産の売買に強い相談先(宅建ベースの不動産売買仲介)が中心になります。
- 相続がらみで、まず不動産として整理したい:宅建ベースの不動産売買仲介。税務・許可の論点は税理士・行政書士と連携できる相談先だと安心です。
背景として、旅館・ホテル市場は回復が進み、市場規模は2024年度に5.5兆円、2025年度は6.5兆円と過去最高の更新が見込まれる一方、宿泊業の倒産は2025年に89件と2年連続で増え、休廃業・解散を含めると年間267件が市場から退出しています。後継者不在率も、旅館・宿泊所は2024年の調査で49.7%と前年より悪化しており、全業種平均(2025年で50.1%)が緩やかに改善するなかで高止まりが続いています。立地・建物・営業許可に価値があるうちに、早めに相談先へ切り分けを依頼しておくことが、選択肢を広く保つ鍵になります。
REYADOは、売主専属の不動産売買仲介(宅地建物取引業者)として、旅館・ホテル・一棟貸しの売却を、囲い込みをせず国内外の買い手に広くつなぐことを方針にしています。最初のご相談は、売ると決める前の「不動産として売るか、事業ごと譲るか」の切り分けからで構いません。まだ方針が固まっていない段階の壁打ちでも問題なく、その場で契約を迫るような進め方はしません。
黒字で後継者だけがいない、といった事業承継型のM&A(株式譲渡)が向くケースにも対応します。REYADOは、不動産売買仲介に加えて、事業承継に必要なデューデリジェンス(財務・労務・税務など)を見極め、提携する専門家を必要な分だけ組み合わせて進める「アンバンドル型」の支援を行う点が特徴です。必要な調査だけを選んで最適化できるため、買い手側のコストや手間を抑えやすく、結果として売り手にとっても話を進めやすくなります。「自分のケースはM&Aと不動産仲介のどちらなのか」が曖昧なうちこそ、まず切り分けのご相談から、整理のお手伝いができます。
本記事の監修:宮﨑洋平(宅地建物取引士/株式会社REYADO 代表/神奈川県知事(1)第33154号)
主な出典
- 国土交通省「宅地建物取引業者が受け取ることができる報酬の額」(令和6年6月21日 国土交通省告示第949号)
- 国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の一部改正(取引状況の登録義務化)」(令和7年1月1日施行)
- 中小企業庁/経済産業省「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月30日)
- 中小企業庁「M&A支援機関登録制度」(2021年8月創設)
- 国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」
- 厚生労働省「令和5年改正旅館業法:事業譲渡に係る手続の整備」(令和5年12月13日施行)
- 帝国データバンク「全国旅館・ホテル市場動向調査」「宿泊業の倒産・休廃業解散動向(2025年)」「全国後継者不在率動向調査」
よくある質問
旅館の売却は、M&A仲介と不動産仲介のどちらに相談すべきですか?+
まず「不動産として売る」か「事業ごと譲る」かで決まります。建物・土地の価値を中心に売るなら不動産仲介(宅建)、従業員や営業許可ごと引き継ぐ承継ならM&A(株式譲渡・事業譲渡)に通じた相談先が向きます。中間のケースも多いため、1社で決めず複数の見立てを比べると安全です。
不動産仲介とM&A仲介で、手数料はどれくらい違いますか?+
不動産仲介は宅地建物取引業法で上限が決まり、1億円の物件なら片方から336万6,000円(税込)が上限です。M&A仲介は法定の規制がなくレーマン方式が一般的で、1億円なら500万円程度ですが、大手では最低手数料2,000万円以上が適用されることもあります。扱う対象(不動産か事業か)が違うため、料金体系も別になっています。
M&A仲介に、不動産仲介のような業法や免許はありますか?+
M&A仲介業務そのものには業法・免許はありません。代わりに中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」と「M&A支援機関登録制度」(2021年8月創設・任意登録)が健全化を担っています。2024年8月の第3版で、手数料や利益相反の開示義務が強化されました。M&A仲介を選ぶ際は、登録の有無と契約内容を確認すると安心です。
旅館の営業許可は、買い手に引き継げますか?+
引き継げます。会社ごと買う株式譲渡なら、許可・従業員・契約は原則そのまま継続します。事業譲渡も、2023年12月の旅館業法改正により、譲受人が事前に都道府県知事等の承認を得れば、新規取得なしに営業者の地位を承継できるようになりました。承認前に経営権を移すと無許可営業とみなされるおそれがあるため、早めの保健所相談が安全です。
旅館の売却は、何社くらいに相談すればいいですか?M&A仲介と不動産仲介の両方に聞いてもよいですか?+
1社で決めず、複数の相談先の見立てを比べるのが安全です。M&A仲介と不動産仲介の両方に話を聞いても問題ありません。むしろ「不動産として売るか、事業ごと譲るか」が固まっていない段階では、両方の見立てを聞くことで、自分のケースに合う進め方が見えてきます。まずは切り分けの相談から始めるとよいでしょう。