旅館M&Aの仲介手数料、相場はいくら? ― レーマン方式の計算式と最低手数料・着手金の実態【2026年版】
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執筆・監修:宮﨑洋平(宅地建物取引士)/株式会社REYADO 代表・宅地建物取引業 神奈川県知事(1)第33154号
旅館M&Aの仲介手数料の相場を先に答えると、多くの仲介会社が採用する「レーマン方式」(取引金額に応じて料率が下がる段階制。5億円以下の部分5%が典型)で計算した場合、成約価額1億円で500万円、3億円で1,500万円、5億円で2,500万円が計算上の目安です(いずれも税別・典型料率での計算値)。
ただし、この計算値だけを見て相場を判断すると実額を見誤ります。多くの会社は計算値とは別に「最低手数料」を設けており、その水準は100万円未満から3,000万円までと極端に幅が広いためです。1億円の旅館を売る場合、レーマン計算では500万円でも、最低手数料2,000万円の会社に依頼すれば請求は2,000万円になります。旅館の売却規模(数千万〜数億円が中心)では、レーマン料率よりも「最低手数料がいくらか」「着手金・中間金があるか」が実際のコストをほぼ決めます。
この記事では、レーマン方式の計算のしかた、最低手数料・着手金の実態、そして「宿を不動産として売る」場合に適用される別の料金体系(宅地建物取引業法の上限規制)までを、計算式つきで宅地建物取引士が整理します。金額はいずれも2026年7月時点の目安であり、実際の手数料は各社との契約内容によります。
相場の早見 ― 「計算値」と「実額」は別物
旅館M&Aの手数料相場は、次の3つの数字で押さえると全体像がつかめます。
- レーマン計算の目安:成約価額1億円 → 500万円/3億円 → 1,500万円/5億円 → 2,500万円(5億円以下の部分5%の典型料率で計算・税別)
- 最低手数料の実態:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」掲載の登録支援機関データでは100万円未満〜3,000万円に分布し、最も多い設定は500万円、次いで1,000万円。大手の公表例では2,000万〜2,500万円、中堅では500万〜1,500万円が目安(各社公表資料に基づく当社調べ・2026年7月時点)
- 着手金の実態:契約時に着手金(50万〜200万円程度)を求める会社と、完全成功報酬型の会社に分かれます(各社公表資料に基づく当社調べ・2026年7月時点)。不成立時の返金条件は会社ごとに異なります
つまり「相場はいくらか」への実務的な答えは、レーマン計算値と依頼先の最低手数料の高い方、プラス着手金・中間金です。売却規模が1〜3億円の旅館では、依頼先の最低手数料の設定次第で、同じ宿でも実際に支払う手数料が数百万円から2,000万円超まで変わります。
レーマン方式の計算式 ― 自分の宿でいくらになるか
レーマン方式は、取引金額を帯(バンド)に分け、帯ごとに料率を掛けて合算する計算方法です。典型的な料率は「5億円以下の部分5%、5億円超〜10億円の部分4%、10億円超〜50億円の部分3%」という段階制です。
- 成約価額1億円:1億円 × 5% = 500万円
- 成約価額3億円:3億円 × 5% = 1,500万円
- 成約価額7億円:5億円 × 5% + 2億円 × 4% = 2,500万円 + 800万円 = 3,300万円
注意すべきは、同じ「レーマン方式」でも会社によって基準が違うことです。成約価額(譲渡対価)を基準にする会社と、時価総資産(譲渡対価+負債)を基準にする会社では、同じ料率でも手数料が大きく変わります。負債のある旅館では、総資産ベースの方が手数料は高くなります。中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」も、支援機関に対して、基準となる価額や最低手数料を含む重要事項を契約前に書面で交付・説明するよう求めています。
実額を決めるのは最低手数料と着手金
旅館の売却規模(中心帯は数千万〜数億円)では、レーマン計算値が最低手数料を下回ることが多く、実際の請求額は最低手数料で決まるケースが目立ちます。前述のとおり、登録支援機関の最低手数料は100万円未満〜3,000万円に分布し(最も多い設定は500万円)、大手の公表例では2,000万〜2,500万円・中堅では500万〜1,500万円が目安です(各社公表資料に基づく当社調べ・2026年7月時点)。
着手金・中間金の有無も実額に効きます。契約時に着手金(50万〜200万円程度)を求める会社では、不成立でも返金されない定めが多く見られます。完全成功報酬型の会社なら、成約するまで費用はかかりません。売却が成立するかどうか不確実な段階では、この違いは小さくありません。
確認の優先順位はこうなります。①最低手数料はいくらか ②着手金・中間金・月額報酬はあるか、不成立時に返金されるか ③レーマンの基準となる価額はなにか(成約価額か時価総資産か) ④専任条項(他社への同時依頼の可否)と契約期間。この4点を契約前に書面で確認すれば、手数料をめぐる想定外を大きく減らせます。
「不動産として売る」なら別体系 ― 宅建業法の上限規制
ここまでの相場はすべて「事業ごと譲る」M&A(株式譲渡・事業譲渡)の話です。同じ旅館でも、休業中・廃業整理などで建物と土地を「不動産として」売る場合は、宅地建物取引業法の報酬上限規制という別の体系が適用されます。
実務では、どちらのスキームになるかは希望よりも宿の状態で決まる面が大きくあります。株式譲渡では会社を包括的に承継するため、貸借対照表上の借入金だけでなく、簿外債務や各種保証等を含めた負債リスクも原則として買い手側に承継されます。このため、債務が整理されていない宿や、収益が出ておらず事業としての値付けが立たない宿は、事業承継(M&A)の対象になりにくく、不動産売買での売却が現実的な選択になるケースが多くあります(事業譲渡では、株式譲渡のような負債の包括的承継ではなく、必要な債務のみを契約によって選択的に承継します。営業許可の承認や雇用の個別同意が必要になる一方、簿外債務の承継リスクを抑えやすい構造で、引き継ぐ事業に実体があることが前提です)。
- 宅建業法の上限(売買価格400万円超):売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税(依頼者の一方から)
- 売買価格1億円:(1億円 × 3% + 6万円)× 1.1 = 336万6,000円(税込)
- 売買価格3億円:(3億円 × 3% + 6万円)× 1.1 = 996万6,000円(税込)
M&A仲介には法定の報酬規制がなく、不動産仲介には法定上限がある――この違いは、どちらのスキームで売るかによって手数料の天井が変わることを意味します。1億円規模では宅建上限(336万6,000円)の方がレーマン計算(500万円)より低く、大手M&A仲介の最低手数料(2,000万円超)とは桁が変わります。ただし安さで選ぶ話ではなく、営業許可・従業員・取引先ごと引き継ぐなら事業譲渡・株式譲渡(M&A)、建物と土地だけ手放すなら不動産売買と、売るものの中身でスキームが決まり、手数料体系はそれに従います。どちらが適するかの整理は「旅館の売却、どこに相談する?」の記事で詳しく解説しています。
買い手側にも手数料はかかる
相場の話は売り手側の手数料が中心になりがちですが、M&A仲介の多くは買い手側からも手数料を受け取ります(両手仲介)。買い手側の料率も売り手と同様にレーマン方式や定率制が使われ、着手金や基本合意(LOI)時の中間金を設ける会社もあります。
売り手にとってこれが重要なのは、買い手の総取得コスト(物件価格+買い手側手数料)が、買い手が提示できる価格の上限を左右するためです。買い手側手数料が高いほど、その分だけ売り手への提示価格が圧縮される力学が働きます。売り手として仲介会社を選ぶ際、買い手側からいくら受け取る体系なのか(利益相反の構造を含めて)を開示してもらうことは、正当な確認事項です。
REYADOの手数料 ― 帯別料率・完全成功報酬(売り手)
参考までに、当社(REYADO)の手数料体系を公開情報のとおり記載します。旅館・ホテル・一棟貸しの事業承継(株式譲渡・事業譲渡)を専門に扱う、宅地建物取引業者としての体系です。
- 売り手(事業承継・M&A):成約時のみいただく完全成功報酬制。成約価額に応じた帯別料率(1億円以下6%/1億円超〜2億円5%/2億円超〜3億円4%/3億円超〜30億円3%・いずれも税別。30億円超は個別にご提案します)で、最低手数料は600万円(税別)。着手金・月額報酬・中間金・タイムチャージはありません。算定は成約価額(譲渡対価)ベースで、時価総資産ベースではありません。
- 買い手(事業承継・M&A):成約価額に対しホテル・旅館5%、一棟貸し4.5%(いずれも最低500万円・税別)。FA契約時の着手金100万円とLOI(基本合意)時の中間金(成功報酬の10%)は、いずれも成功報酬に全額充当されます。
- 事業承継・M&Aではなく、単純な不動産取引として進める場合:売り手・買い手とも宅地建物取引業法の上限の範囲内(売買価格×3%+6万円+税)の仲介手数料です。
なお、成約価額が1億円未満の場合は、帯別料率の計算値(例: 8,000万円 × 6% = 480万円)を最低手数料600万円が上回るため、適用されるのは最低手数料の600万円です(8,000万円の成約なら実質約7.5%)。本記事で整理した「実額はレーマン計算値と最低手数料の高い方で決まる」という構造は、当社の体系でもそのまま当てはまります。
なお、成功報酬とは別に、物件写真のプロ撮影費や遠方対応の交通・宿泊費、外部専門家によるデューデリジェンス等の実費を別途ご負担いただく場合があります(該当時は契約前にご説明します)。
料率・最低手数料を含む手数料の内容は、媒介契約・FA契約の前に必ず書面でご説明します。売り手・買い手双方から手数料をいただく取引では、その旨と当社の立場を開示したうえで進めます。どのスキーム(事業譲渡・株式譲渡・不動産売買)が適するかで手数料体系そのものが変わるため、まず宿の状況(営業中か・許可を引き継ぐか・負債の有無)を伺ってから、体系と概算を提示する流れです。
よくある質問
旅館M&Aの仲介手数料の相場はいくらですか?+
レーマン方式(5億円以下の部分5%が典型)による計算値は、成約価額1億円で500万円、3億円で1,500万円、5億円で2,500万円が目安です(税別)。ただし多くの仲介会社は別途「最低手数料」を設けており、中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」掲載の登録支援機関データでは100万円未満〜3,000万円に分布し、最も多い設定は500万円です(大手の公表例では2,000万〜2,500万円・当社調べ)。計算値がそれを下回る場合は最低手数料が実際の請求額になります。着手金(50万〜200万円程度)を求める会社もあります。2026年7月時点の目安です。
最低手数料とはなんですか?なぜ重要なのですか?+
レーマン計算値がいくら小さくても、これ以上は下がらないという下限額です。旅館の売却中心帯(数千万〜数億円)ではレーマン計算値が最低手数料を下回ることが多く、実際に支払う金額は最低手数料で決まるケースが目立ちます。同じ1億円の売却でも、最低手数料300万円の会社と2,000万円の会社では請求額が7倍近く変わるため、相場を知るうえで最も重要な確認点です。
着手金や中間金は不成立でも返金されますか?+
着手金(契約時・50万〜200万円程度)や中間金(基本合意時)の返金条件は会社ごとに契約で定まり、不成立でも返金されない定めが多く見られます。成約まで費用をかけたくない場合は、完全成功報酬型の会社を選ぶ選択肢があります。いずれの場合も、返金条件は契約前に必ず書面で確認してください。
旅館を「不動産として」売る場合の手数料はいくらですか?+
宅地建物取引業法の上限規制が適用され、売買価格400万円超の場合「売買価格×3%+6万円+消費税」が依頼者の一方から受け取れる上限です。1億円なら336万6,000円(税込)、3億円なら996万6,000円(税込)が上限になります。M&A仲介と違い法定上限があるため手数料の天井が明確ですが、営業許可や従業員の引き継ぎは対象外です。どちらのスキームが適するかは宿の状況によります。
手数料が安い会社を選べばよいですか?+
手数料の安さだけで選ぶことはおすすめしません。売却価格そのものは、買い手ネットワークの広さ(海外投資家を含むか)やスキーム設計で大きく変わるためです。手数料が数百万円安くても、売却価格が数千万円低ければ手取りは減ります。確認すべきは①最低手数料②着手金・中間金の有無と返金条件③レーマンの基準となる価額④専任条項と契約期間の4点で、加えて買い手側からいくら受け取る体系か(利益相反の開示)も確認に値します。これらを書面で示せる会社かどうかが選定の起点になります。