個人で旅館・ホテルを買うには? ― 探し方・3つの買い方・許可の承継・融資【2026年版】
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執筆・監修:宮﨑洋平(宅地建物取引士)/株式会社REYADO 代表・M&A支援機関、宅地建物取引業者 神奈川県知事(1)第33154号
個人でも、旅館・ホテル・一棟貸しを買うことはできます。難しいのは建物を買うことそのものより、買ったあとに宿として営業を続けられるかどうかです。営業に必要な旅館業の許可をどう引き継ぐか(あるいは取り直すか)、誰が運営するか、資金をどう組むかを、買う前に決めておく必要があります。
本記事では、買い手の立場から、物件の探し方、3つの買い方(不動産売買・事業譲渡・株式譲渡)の違い、営業許可の承継、買う前に確認すること、融資と費用までを順に整理します。許可・融資・税務の扱いは物件・自治体・時期によって異なるため、最終的には管轄の保健所・金融機関・税理士などの専門家への確認を前提にお読みください。
個人でも旅館・ホテルは買える? ― 決め手は「許可」と「運営体制」
旅館・ホテルの土地・建物は、個人でも購入できます。ただし、旅館・ホテルや簡易宿所として営業するには旅館業法の営業許可が必要で、許可は宿を営業する者が受けるものです(住宅宿泊事業〔いわゆる民泊〕や特区民泊は、別の届出・認定の制度です)。建物の名義が変わっても営業許可が自動的についてくるわけではなく、営業する人が変わるときは、承継の手続きか新たな許可が必要になります。
そのため、買う前に決めておきたいのは次の3点です。①営業許可を売主から引き継ぐのか、新しく取るのか。②自分で運営するのか、運営会社に任せるのか。③個人名義で買うのか、法人を作って買うのか。③は税務・融資・責任の範囲・将来の売り方に影響するため、税理士などと個別に検討します。
なお、住宅宿泊事業(いわゆる民泊)には年間180日の営業日数の上限があり、この日数は届出住宅ごとに、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの1年間で数えます。事業者が替わっても日数は引き継がれ、リセットされません(観光庁FAQ)。事業者が替わるときは、原則として旧事業者の廃業届と新事業者の新規届出が必要で、提出時期・書類・条例上の制限は自治体に確認します。通年で営業したい場合は、原則として旅館業の許可で運営する前提で物件を選ぶことになります(国家戦略特区の対象区域では、特区民泊の可否も確認します)。詳しくは民泊投資は今から始めて大丈夫?をご覧ください。
物件の探し方 ― ポータル・仲介会社・非公開の案件
旅館・ホテルの売り物件は、主に次の経路で見つかります。①不動産投資のポータルサイト(売りホテル・売り旅館の一覧)。②旅館・ホテルの売買やM&Aを扱う仲介会社。③仲介会社が登録した買い手にだけ紹介する、広く公開されていない案件。営業中の宿は、従業員や取引先に知られないよう売主が公開を控えることがあり、③の形で紹介されるものもあります。
探し始める前に、条件を言葉にしておくと話が早く進みます。エリア(候補の市町村)、規模(客室数の下限・上限)、物件価格と改修・運転資金を分けた総予算、融資を使うか、自分で運営するか運営会社に任せるか、営業中の宿を引き継ぐか空いた建物から始めるか、の6点です。
REYADOの掲載物件は旅館・ホテル・一棟貸しの売り物件で見られます。会員登録後に、物件名や所在地を伏せた案件の詳細をご案内する場合があります(売主・元付業者の了承の範囲に限ります)。条件に合う物件があることを保証するものではありません。
3つの買い方 ― 不動産売買・事業譲渡・株式譲渡の違い
旅館・ホテルの買い方は、大きく3つに分かれます。どれになるかで、引き継ぐもの・許可の扱い・リスク・手数料の決まり方が変わります。
- 不動産売買:土地・建物だけを買う方法です。営業の中身(従業員・予約・取引先)や売主の会社の債務が、当然に移るわけではありません(個別に引き継ぐ合意や、物件についている権利・負担は別に確認します)。廃業した宿や空いた建物を買う場合の選択肢で、既存の営業者の地位を引き継がずに、買い手(または買い手が選ぶ運営者)が新たに営業する場合は、原則として新たな許可が必要です。既存の運営会社が建物を借りて営業を続ける形では、扱いが異なります。仲介手数料は宅地建物取引業法の上限の範囲内です(売買価格が400万円を超える場合の速算式は「売買価格×3%+6万円」に消費税を加えた額で、400万円以下は料率が異なります。また2024年7月から、800万円以下の宅地・建物には、一方あたり税込33万円までとする特例〔低廉な空家等〕が適用される場合があります。上限は請求できる定額ではなく、その範囲内で事前に合意します)。
- 事業譲渡:宿の事業そのもの(施設・契約など)を選んで個別に移す方法です。引き継ぐ資産や契約を選べるため、売主の会社の債務を比較的切り離しやすい一方、従業員ごとの同意、取引先との契約ごとの同意や再契約が必要になります。予約サイトのアカウントを移せるかは各サイトの規約によります。許可は自由に選んで移せるものではなく、旅館業の営業許可は2023年12月の改正で、事前の承認を受けて営業者の地位を引き継げるようになりました。
- 株式譲渡:宿を運営する会社の株式を買い、会社ごと引き継ぐ方法です。会社が続くため、営業許可・雇用・契約は原則そのまま続きます(契約に支配権が変わるときの条項がある場合などは、別に確認します)。その代わり、会社が抱える帳簿に載っていない債務や未払いの残業代、係争なども一緒に引き継ぐおそれがあり、買う前の調査が特に重要になります。
事業譲渡・株式譲渡はM&Aの代表的な手法で、事業承継にも使われます。M&A仲介の手数料に法律で決まった一律の料率はなく、算定の基準や最低額は会社ごと・契約ごとに異なります。どの形が向くかは、許可の扱いだけでなく、債務・雇用・税務まで含めて決まります。税務は税理士、契約・債務の引受は弁護士の領域で、専門家と組み合わせて設計するのが安全です。
営業許可は引き継げる? ― 2023年改正と、承認のタイミング
株式譲渡では、許可を持つ会社(営業者)がそのまま続くため、通常は営業者の地位の承継手続きは要らないと考えられます。ただし、法人の代表者や役員など許可の申請事項が変わる場合は、原則として変更後10日以内に変更届が必要です(旅館業法施行規則)。様式・添付書類は管轄の保健所に確認します。
事業譲渡では、2023年(令和5年)12月13日施行の改正旅館業法(第3条の2)により、譲渡人と譲受人が都道府県知事等の承認を受ければ、買い手が営業者の地位を引き継げるようになりました。改正前は、売主が廃業届を出し、買い手が新規に許可を取り直す必要がありました。
買い手として特に注意したいのは、承認を受ける前に事業譲渡の効力が発生すると、この承継の仕組みは使えず、新規の許可が必要になる点です。承認を受けた後に効力が発生するよう(承認の成立時点は自治体に確認します)、契約上の効力発生日を決めておきます。また、当分の間、承継から6か月以内に少なくとも1回、都道府県知事等(窓口は保健所)が承継後の業務の状況を調査するとされています(令和5年法律第52号 附則第3条第2項)。厚生労働省は、施設・設備の基準や衛生管理などを確認すると説明しています。承継後は買い手が営業者として衛生管理を担います。
許可を受けている事業の一部だけの譲渡は、承継の仕組みの対象外とされています(厚生労働省)。一体で運営している旅館のうち一方の棟だけを切り出す場合は、施設と許可の単位を事前に確認します。承継後に施設を大きく変える場合は、変更届で足りるか新たな許可が要るかを確認します。手続きの流れ・書類・手数料は自治体によって異なるため、契約や効力発生日を決める前に、余裕をもって管轄の保健所へ相談してください。詳しくは旅館の営業許可は引き継げる?で解説しています。
買う前に確認すること ― 債務・温泉・予約サイト・耐震
営業中の宿を引き継ぐ場合、売り出し価格や建物の見た目からは分からない論点があります。契約の前に、少なくとも次の項目を確認します。
- 会社や事業が抱える債務:帳簿に載っていない債務、未払いの賃金・残業代、取引先や従業員との係争がないか(株式譲渡では特に重要)
- 許可の状態:旅館業の許可の種別(旅館・ホテル営業、簡易宿所営業など)、行政指導・処分と是正の状況、許可に個別の条件がある場合はその内容
- 温泉を使う権利:自前の源泉か、他の源泉から引いているか。引湯の契約の期間・更新・料金・譲渡の条件、温泉組合の規約(中身は契約ごとに異なります)
- 予約サイト(OTA)のアカウントと口コミ:名義変更やデータの移行ができるか(各サイトの規約による)
- 建物の耐震:新耐震基準(1981年6月1日以降の建築確認)かどうかは竣工日ではなく建築確認日が目安。ただし確認日だけで今の耐震性は決まらないため、確認済証・検査済証、図面と現況の一致、増改築や劣化の有無を確認し、必要に応じて耐震診断を行う
- 立地の規制:用途地域・消防法令への適合、自治体の条例による制限
温泉を使う権利は土地・建物の所有権とは別に存在しうるため、源泉・引湯などの契約上の権利と、温泉法上の許可を分けて確かめます。温泉法上の利用許可は、法人の合併・分割(事前の承認)や相続(期限内の承認申請)では承継の定めがありますが、通常の事業譲渡はこの承継の対象に含まれていません。事業譲渡では新たな利用許可が必要になる可能性があるため、都道府県に事前に確認します。予約サイトのアカウントは、たとえばAirbnbは公式ヘルプでアカウントの譲渡を認めていません。詳しくは旅館売却で見落としがちな引き継ぎをご覧ください。
これらの調査(デューデリジェンス)は、財務・労務・法務などの専門家が担います。すべてを一括で依頼する必要はなく、物件と買い方に応じて必要な項目に絞ると、費用と時間を抑えやすくなります。
資金の組み方 ― 融資を使うなら、事業向けの融資が基本
住宅ローンは通常、本人や家族が住む住宅を買うための商品です。たとえばフラット35は、旅館として使う物件や投資用の物件には使えません。民間の住宅ローンも資金の使い道が合わない可能性が高く、自宅部分を含む物件などは扱いが分かれるため、商品の条件を金融機関に確認します。融資を使って宿を買う場合は、事業向けの融資を検討します。新規・小規模の開業では日本政策金融公庫(国民生活事業や生活衛生関係の融資)が有力な候補の一つで、民間金融機関の事業性融資も選択肢になります。これは一般的な情報の紹介で、特定の融資を推奨・保証するものではありません。
審査では一般に、事業計画と返済の見込み、自己資金、許認可の取得状況や見込みが確認され、担保をつける融資では物件の担保評価も考慮されます(無担保の制度もあります)。宿の場合は「許可を引き継げる・取れる見込み」と「その前提での収支計画」をあわせて示せるかが重要になりやすい傾向があります。売上の前提(稼働率・単価)を楽観的に置かず、下振れしても返済が回るかを前提と計算式で示せるようにしておきます。
融資の可否・金利・融資額は、申込者の信用状況、事業計画、資金の使い道、返済期間、担保、金融情勢、各金融機関の審査基準などによって異なり、本記事で断定することはできません。詳しくは民泊投資でローンは使える?で整理しています。売主が示す利回りや稼働を、買う前に自分の前提で確かめるには無料の収益シミュレーションを使えます。
物件価格のほかにかかる費用
予算は、物件価格だけで組まないことが大切です。物件価格のほかに、次の費用を見込んでおきます。
- 仲介手数料(不動産売買は宅地建物取引業法の上限の範囲内、M&Aは仲介会社との契約で決まる料率・最低手数料)
- 必要に応じて依頼する、買う前の調査(財務・労務・法務・建物・許認可など)の専門家費用
- 登記・税金(不動産の所有権を取得する買い方では、原則として所有権移転登記の登録免許税と、登記の有無にかかわらず不動産取得税。株式譲渡では会社が不動産を持ち続けるため、通常は不動産の所有権移転は生じません。金額は物件と買い方で変わるため税理士・司法書士に確認)
- 建物・設備の状態に応じた改修・更新の費用(旧耐震の建物では耐震診断・改修の要否も。大規模なホテル・旅館などは、法律で耐震診断が義務づけられている場合があります)
- 許可の承継・新規申請で自治体の条例に基づく手数料、開業前後の人件費・広告費などの運転資金
REYADOの買い手側の費用は旅館・ホテルのM&Aのページの「買い手(譲受側)の費用を見る」に掲載しています。不動産売買の形になる場合は、宅地建物取引業法の上限が適用されます。どの形になるか、費用がいくらかは、契約の前に書面でご説明します。
まとめ ― 買う前に「許可・運営・資金」の筋道を立てる
個人でも旅館・ホテルは買えますが、宿として営業を続けるには、営業許可の扱い、運営の担い手、資金の組み方を、買う前に決めておく必要があります。買い方は不動産売買・事業譲渡・株式譲渡の3つで、許可の扱いと引き継ぐリスクがそれぞれ違います。事業譲渡で許可を引き継ぐ場合は、効力発生日より前に承認を受けること、株式譲渡では会社の債務を調べることが要点です。
REYADOは、旅館・ホテル・一棟貸しの売買を扱う宅地建物取引業者・M&A支援機関です。買い手の条件整理、物件の紹介、買う前の調査で必要な項目の見極めと専門家の手配、許可の承継の段取り、契約から引き渡しまでを支援します。売主・買主の双方から手数料を受け取る取引では、その旨を開示したうえで進めます。
本記事の監修:宮﨑洋平(宅地建物取引士/株式会社REYADO 代表/神奈川県知事(1)第33154号)
主な出典
- 厚生労働省「令和5年改正旅館業法ポータル:事業譲渡に係る手続の整備」
- 旅館業法 第3条の2/旅館業法等の一部を改正する法律(令和5年法律第52号)附則第3条第2項(e-Gov法令検索)
- 住宅宿泊事業法・観光庁「民泊制度ポータルサイト よくあるご質問」(年間180日の上限は届出住宅ごとに通算)
- 温泉法(第15条・第16条・第17条)
- 旅館業法施行規則(申請事項の変更届)
- 建築基準法(新耐震基準 1981年6月1日適用)・建築物の耐震改修の促進に関する法律
- 宅地建物取引業法 第46条・国土交通省告示(売買の媒介報酬の上限、低廉な空家等の特例)
- 住宅金融支援機構「フラット35」の利用条件
- 日本政策金融公庫(国民生活事業・生活衛生関係営業の融資制度、一般情報)
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」
よくある質問
個人でも旅館やホテルを買えますか?+
土地・建物は個人でも購入できます。ただし旅館・ホテルや簡易宿所として営業するには旅館業法の営業許可が必要で、許可は宿を営業する者が受けるもので、建物を買えば自動的についてくるものではありません。許可を売主から引き継ぐか新しく取るか、誰が運営するか、個人名義か法人名義かを、買う前に決めておく必要があります。名義の選択は税務・融資などに影響するため、税理士などにご相談ください。
旅館を買うとき、営業許可は引き継げますか?+
買い方によって異なります。会社ごと買う株式譲渡では、営業者である会社が変わらないため、通常は承継の手続きは要らないと考えられます(役員など申請事項が変わる場合は変更届が必要です)。事業譲渡では、2023年12月13日施行の改正旅館業法(第3条の2)により、事前に都道府県知事等の承認を受ければ営業者の地位を引き継げます。承認の前に譲渡の効力が発生すると、承継の仕組みは使えず新規の許可が必要になります。土地・建物だけを買って新たに営業する場合は、原則として新たな許可が必要です(既存の運営会社が借りて営業を続ける形では扱いが異なります)。可否は管轄の保健所にご確認ください。
株式譲渡と事業譲渡、買い手にとってどちらがよいですか?+
一概には言えません。株式譲渡は許可・雇用・契約が原則そのまま続く一方、会社の帳簿に載っていない債務や係争も引き継ぐおそれがあります。事業譲渡は引き継ぐ資産や契約を選べるため債務を比較的切り離しやすい一方、従業員や取引先との契約を個別に移す必要があり、予約サイトのアカウントを移せるかは各サイトの規約によります。許可の扱いに加え、債務・雇用・税務を含めて、専門家と検討して決めます。
旅館・ホテルの購入に住宅ローンは使えますか?+
住宅ローンは通常、本人や家族が住む住宅のための商品で、たとえばフラット35は旅館として使う物件には使えません(自宅部分を含む物件などは扱いが分かれるため、金融機関に確認します)。融資を使って宿を買う場合は事業向けの融資を検討し、新規・小規模の開業では日本政策金融公庫が有力な候補の一つ、民間金融機関の事業性融資も選択肢です。融資の可否・条件は金融機関の審査により、本記事で断定はできません。
買う前に必ず確認すべきことは何ですか?+
営業中の宿を引き継ぐなら、会社や事業の債務(帳簿外の債務・未払い賃金・係争)、許可の状態、温泉を使う権利、予約サイトのアカウントと口コミ、建物の耐震(建築確認日が1981年6月1日以降か、その後の増改築・劣化)、用途地域・消防・条例の規制を確認します。調査は専門家が担い、物件と買い方に応じて必要な項目に絞ることもできます。